2025.10.3
僕たちの旅日記
– スタジオ・クッカプロ編 –
「ウルヨ・クッカプロ」というお名前を耳にしたことがあるでしょうか。
彼は、世界的に活躍したフィンランド人デザイナーで、「世界で最も快適な椅子の作り手」の異名を持ち、フィンランドでその名を知らない人はいません。
今年2月に91歳で亡くなったニュースが流れたときには、フィンランド中が悲しみに包まれました。
ぼくたちがフィンランドを旅する途中、そんなクッカプロさんのご家族とご縁があり、今回フリーデザインでも日本未発売のポスターを販売できることに。
そのなんとも不思議な出会いや一般公開していないスタジオにお邪魔した様子をお届けします。
イカワ ユウタ 珈琲と映画と音楽をこよなく愛す1児の父。古いものに目がなく、自宅でも北欧ヴィンテージに囲まれて暮らしています。
イトウ アキラ 5歳の娘と2歳の息子の2児の父。子どもと公園に行くことが毎週の楽しみ。毎晩の晩酌はかかせません。
きつね 買い付けの旅に同行してくださった、WEBメディア“La La Finland”を運営するフィンランド在住のきつねさん。ここからはきつねさん目線で旅の様子をお届けします。
出会いは、ヘルシンキ郊外にある大きなリサイクルショップ。 イカワさんとイトウさんが買い付けるアイテムを吟味していると突然、「きみたちは、日本から来たの?ぼくもヴィンテージのガラスが大好きでね、コレクターなんだよ。」と話しかけてくる年配の紳士が。 その紳士とイッタラやヌータヤルヴィなどのガラスについて話に花が咲いているところへ、彼の奥さんである明るいマダムがやってきました。 そして、「あら、日本から来たのね。もしインテリアにも興味があるなら是非うちのスタジオに遊びに来て。特別にご招待するわ」と名刺をくださったお名前を見て、わたしたちは目を疑いました。 なんとそこには「イサ・クッカプロ」というお名前が。 そう、彼女はウルヨ・クッカプロの娘さんと、その夫のヘンリックさんだったのです! 話はとんとん拍子に進み、なんと翌日、一般公開されていないクッカプロ・スタジオにお邪魔することに。
Designer
ウルヨ・クッカプロ /Yrjö Kukkapuro
1933-2025
フィンランドの東カレリア地方、ヴィープリ(現ロシア領)生まれ。
ヘルシンキ芸術デザインアカデミー(現アアルト大学)で学び、自身のデザイン事務所を設立。
その後自らも教鞭をふるいながら、ヘルシンキ地下鉄駅のベンチなど数多くの公共空間・家庭用家具や建築を手掛けた。
クッカプロが生みだす家具は人間工学的に基づいた機能性と有機的なフォルムを特徴としており、亡くなる直前まで約70年間に渡りデザインを続けた。
Photo:Ofer Amir for Studio Kukkapuro
「いらっしゃい!よく来てくれたわね」とあたたかく迎えてくださった、イサさんとヘンリックさん、そして愛犬のニーハオ。 生前ウルヨ・クッカプロさんは中国と縁が深かったことから、中国語で「こんにちは」という意味の名前をつけたそう。 スタジオに入ると、早速イサさんが直々にスタジオの中を案内してくださいました。 まず建物自体がとてもスペシャルで、まるで宇宙船のよう。
Photo:Ofer Amir for Studio Kukkapuro
在りし日の、スタジオで作業をするクッカプロさん。
ウルヨ・クッカプロさんが自らデザインしたこのスタジオは、かつて住居としても使われており、イサさんは幼少期から青春時代をここで過ごしたそうです。
ウルヨ・クッカプロさんがオフィスとして使っていた空間も、そのまま残されてていて、今にも彼がデザインを始めそう。 椅子をデザインするときに描いたドラフトや、プロトタイプの作品など、ミュージアムでしか見ることのできない貴重な作品をたくさん見せていただき胸がいっぱいになりました。
新聞の切り抜きや写真など、彼の思い出がたっぷり詰まったスタジオ。 そんなクッカプロ・ファミリーにとって大切なこの場所を、現在は娘のイサさんが受け継いで管理しています。
Photo:Ofer Amir for Studio Kukkapuro
このスタジオでポーズをする、お茶目な在りし日のクッカプロさんと、イサさん。思い出の一枚を、わたしたちにも見せてくださいました。
「クッカプロはフィンランドでは広く知られているけれど、海外ではまだまだフィンランド国内ほど知られていない。偉大な父のこと、そしてその作品たちのことをどうやったらもっと知ってもらえるか、試行錯誤しているところなのよ。」と、イサさん。
そんな想いから、将来的にはアアルト自邸のように、一般公開や見学ツアーの提供もしたいと考えているそう。
あまりに有名なウルヨ・クッカプロを代表する名作「カルセリ ラウンジチェア」でくつろぐイカワさん。 テレンス・コンラン卿が愛した椅子としても知られ、1974年にThe New York Timesによって「世界で最も快適な椅子」として紹介されたり、ニューヨークのMoMA、ロンドンのVictoria & Albert Museum、ストックホルムのNational Museum of Fine Artsといった世界中の名だたる美術館で、彼の展覧会が開催されました。
生涯現役デザイナーとして、数えきれないほど多くの椅子をデザインした、クッカプロさん。 このふたつの椅子は、なんと彼が最初にデザインしたもの(左)と最後にデザインしたもの(右)。 最後にデザインしたものは、足腰が弱くなった年配の方に座りやすいように、と座面を高めにデザインしたそうで、常に使い手の座り心地を追求していたことが伺えます。
窓の外に見える、アトリエに隣接した小さな住宅。 ウルヨ・クッカプロは晩年ここで暮らし、イサさんとヘンリックさんは今もここに住んでいます。
スタジオ内を案内していただいたあと、イサさんが執筆したウルヨ・クッカプロさんに関する書籍を譲っていただけることに。 イサさんの直筆サインもいただくことができました。 とても気さくであたたかいイサさんとヘンリックさんのお人柄に感動する、イカワさんとイトウさんでした。
最後に、みんなで記念撮影。 こんな不思議な出会い、そして貴重な経験が待っていたなんて、思いもしない大きなサプライズでした。 楽しくワクワクして過ごしていると、ワクワクするものや人との出会いも寄ってきてくれるのかもしれませんね。
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まさかの出会いから繋がったポスタープロジェクト
スタジオの壁にそっと飾られていたポスターに、イカワさんとイトウさんも一目惚れ。 「アルヌス・ポスター」という名前のこの作品は、グラフィックアーティストのタパニ・アールトマーがのウルヨ・クッカプロのために1993年にデザインしたもの。 その下の壁に立てかけられたフレームに入った小さいサイズのものは、2023年にEMMA(エスポー現代美術館)で開催されたクッカプロ展用に復刻版として制作されたもので、「今はこのスタジオでしか買えないのよ」とイサさん。
そんなとてもレアなポスターを、今回フリーデザインでも取り扱えることになりました。 このポスターがユニークでおもしろいところは、なんとポスターが先に制作され、そのデザインを基にクッカプロが椅子を製作した、ということ。実際の椅子は39脚しか製造されず、コレクターズアイテムになりました。
そのうちの貴重な一脚が、スタジオの棚の上に飾られています。 椅子は「モデル4」と名付けられ、それは数字の4の形に見えるから、という裏話も。 元々クッカプロ作品が好きで憧れていた、イカワさんとイトウさん。
そんな二人が今回このような不思議な縁でイサさんと直接お話しし、「もっと世界中の人に偉大なクッカプロとその作品について知ってほしい」という彼女の想いに触れて心動かされ、今回フリーデザインでもポスターを販売することで彼女の活動に貢献したいと伝えたところ、当プロジェクトを実現することができました。 日本でクッカプロさんの名作チェアを入手するのは簡単ではありませんが、このポスターなら取り入れやすいですね。
テキスト:きつね
東京都出身、2019年よりフィンランド在住。フリーランスのライターやバイヤー、コーディネーター等として日本とフィンランドを繋ぐ活動をする傍ら、自身のウェブメディアやインスタグラムでフィンランド生活やおすすめカフェなどについて発信している。お日さまとコーヒーと深夜ラジオがすき。
Website:https://lalafinland.com/
Instagram:@lalafinland
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Photo:1・3~7・9~13 by Kitsune
Photo:2・8・14 by Tanuki(ikawa&ito)
旅はまだまだつづく……