
SPECIAL INTERVIEW
ヴェーラ・アラ・ヴァハラ/Veera Ala-Vähäläさん
フィンランド・ヘルシンキを拠点に活躍するセラミックアーティスト、ヴェーラ・アラ・ヴァハラさん。
見る人々の顔を思わずほころばせる、一匹一匹の個性が愛おしい、セラミックのワンちゃんたち。そのつぶらな瞳と目が合ったら、キュンとせずにはいられません。ヴェーラさんの指先からうまれた数々のワンちゃんたちを、今回日本で初めて、フリーデザインで取り扱います。そこで、セラミックでワンちゃんをつくるようになった理由や制作秘話などについて、ヘルシンキのスタジオでお話を伺いました。
ヴェーラ・アラ・ヴァハラ/Veera Ala-Vähälä
グラフィックデザイナーとして活躍したのち、セラミックの技術を学び、ヘルシンキを拠点にセラミックアーティストとしての活動を始める。幼い頃から大好きだったという動物たちを、犬を中心に、ミニチュアサイズで制作。ひとつひとつ指先でこねて形作られたやわらかな表情の動物たちが、多くのファンを魅了している。
Instagram: @ceramicdoggies
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ヴェーラさんがつくる小さな動物たちは、どの子もとてもやさしい雰囲気をまとっていて、そこからヴェーラさんのワンちゃんへの愛情をとても感じます。ご自身と、ワンちゃんとの関係はどんなものですか?
ありがとう! わたしの作品からそのように感じてもらえることを、とてもうれしく思います。
犬とわたしの関係についていえば、今愛犬「ルミ(「雪」という意味のフィンランド語)」と暮らしていて、この子とはスタジオに来るときもいつも一緒です。わたしが制作中は、お気に入りの椅子の上でくつろいで待っていてくれるんですよ。ルミは、ルーマニアのシェルターからフィンランドにやって来た、8歳の保護犬の女の子。実家でもフィニッシュ・ラップフンドと、日本スピッツを飼っていましたが、飼おうと両親を説得したのはわたしでした。
わたしは子どもの頃から動物全般が大好きで、シュライヒの小さい動物のおもちゃで遊んでいたのですが、どこかのタイミングで特に犬が大好きになったんです。そして、実家にあった「世界の犬種図鑑400」という本を、夢中になってずーっと読んでいたことを覚えています。見た目も性格も違う、たくさんのバリエーションの犬がいることに魅了されていました。読むだけでは満足できず、その本で見たさまざまな犬のイラストを描くようになりました。そしてその頃、お友達に誘われて、ポリマークレイ(オーブン粘土)で遊んだんです。カラフルなプラスチックでできた粘土で、オーブンで焼いて固めることができるものです。そのときに初めて、小さい動物、特に犬を粘土でつくりました。お友達と一緒に、何百個もつくったんですよ。サイズは今つくっているものよりもっと小さくて、多分2cmぐらいの大きさだったんじゃないかしら。色んな種類の犬をたくさんつくるのが、本当に楽しくて。しばらくつくり続けたあと、またイラストを描くことにシフトしていきました。

お気に入りの椅子でくつろぐルミちゃん/Photo : ©きつね

ヴェーラさんが描いたルミちゃんのイラスト/Photo : ©Veera Ala-Vähälä
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なるほど、大人になってからセラミックのワンちゃんをつくり出したのは、ヴェーラさんにとって自然な流れだったのですね。いつ頃から、セラミックアーティストとして活動をしていますか?
アートハイスクールに通ったあと、大学でグラフィックデザインを学んだこともあり、しばらくはグラフィックデザインとイラストに集中していました。大学卒業後、グラフィックデザインエイジェンシーで数年間働いたのですが、自分自身のアートを自由に表現したいと思うようになり、働きながら学べるセラミックコースに申し込んでみたんです。それが、2014年頃のことでした。特に、具体的に何をつくりたいか決めていたわけではなかったのですが、実際に授業で粘土を手に取ったとき、気づけば小さな犬をつくり始めていたんです。子どもの頃につくっていたこともあり、わたしにとっては、それがとても自然なことでした。
セラミックで表現することは、グラフィックデザインとは違うあたたかみがあると気付きました。たとえば展示会をして人と繋がることもできたりと、制作活動以外の部分もとても楽しく、素晴らしい先生にも出会うことができました。このコースを数年間受講したことをきっかけにセラミックの世界に魅了されて、もっと頻繁にたくさんつくりたくなり、ヘルシンキにある大きなスタジオの窯を借りて制作していましたが、それでも物足りなくなり、なんと自分の窯を購入してしまったんです。それをグラフィックデザインスタジオに置いて、かなりたくさんの犬をつくりましたね。それが2016年頃のことで、ヘルシンキの「アルテック/Artek」で販売したり、ソロの展示会も実現しました。でももっと技術を深く学びたいと思っていたら、セラミックコースで出会った友人から、いい職業訓練学校があるらしい、という話を聞いて応募し、通いはじめました。そこには素晴らしい先生方と、充実したワークショップがあり、授業がないときでもいつでも自由に使えるスタジオがありました。そこでセラミックについてより学びを深め、さまざまな粘土の種類についてや、オリジナルの釉薬をつくることも学ぶことができました。今、わたしの作品に使っている釉薬も、その多くが自分で配合してつくったものなんですよ。

ラハティ近郊にある薪釜/Photo : ©Veera Ala-Vähälä
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セラミックアーティストとしての制作活動の中で、何か心に残る出来事はありますか?
去年の春に、ラハティ近郊のマッルスヨキという小さな街にある薪窯で作品を焼く機会に恵まれました。薪窯はフィンランドにいくつかありますが、ここはセラミックアーティストが自分でつくって運営している場所で、普段スタジオで使っている電気釜とは全く違う世界なんです。とても大きな窯に、さまざまなアーティストがそれぞれの作品を入れて、協力して数十分おきに薪を焚べ続けます。夜中もシフトを組んで、必ず誰かが釜の面倒を見るのです。そして作品が焼き上がったときは、みんなで一緒に作品を取り出して、仕上がりについて会話が生まれたりと、とても社交的な経験でした。

薪釜で焼いた作品/Photo : ©Veera Ala-Vähälä
そこで焼いた作品は、普段と違って全く釉薬を使わずに焼き、灰が高温で溶けることで自然の釉薬になって、表面にとても特別な色とテクスチャーを与える技法を使いました。この仕上がりが素晴らしく、薪釜で焼く制作のプロセスも含めて、とてもスペシャルな経験になりました。思い入れがありすぎて、販売はできなそうですが(笑)夏は火災のリスクがあったり、冬は湿度が高すぎたり、と薪釜は使える季節が限られているのですが、今年の秋にでもまた挑戦できたらいいなと思っています。いつか薪釜で焼いた作品のエキシビションもできたらいいですね。

作品を見せてくださるヴェーラさん/Photo : ©きつね
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サイズも、とても印象的です。このようなサイズにしたのはどうしてですか?
子どもの頃にポリマークレイでつくったのが小さいものだったこともありますが、セラミックでは、厚さが数cmを超えると、中を空洞にしなくてはいけないという技術的な都合もあります。元々ミニチュアをつくるのが好きで自分にとって心地のいいサイズであることもあり、自分がつくりたいものと、技術的な都合、全ての面で好都合だったのがこのサイズなんです。

制作途中のセラミック作品たち/Photo : ©きつね

スタジオの棚に飾られたヴェーラさんの作品たち/Photo : ©きつね
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ヴェーラさんがつくるワンちゃんたちは一匹一匹が異なる表情やポーズをしていますが、どのようにしてつくるのでしょうか?
粘土の塊を、指先で少しずつこねてつくっています。なのでとても自由度が高く、ひとつとして同じものはない、ユニークなかたちにすることができます。自分の手で動物たちを形作るプロセスは、子ども時代に戻った気持ちになれる、なんだか心地のいい時間なんです。かたちができたら、まず目と鼻をペイントし、その段階で顔の表情が出来上がります。そして、その目と鼻のペイント部分をワックスでコーティングして守ってから窯で焼くので、その部分を触ると少しテクスチャーが違うんですよ。

異なるテクニックで色付けしたワンちゃんたち/Photo : ©きつね
色付けは、ブラシやスプレー、スポンジなど、その動物の種類によってさまざまな道具を使い分けています。以前は、ペイントしてからその上に透明の釉薬を塗るテクニックを主に使って色付けしていました(写真左の犬)。そうすると、シャープではっきりとしたラインを表現できます。でも最近は、白い釉薬を塗って、その上にペイントする技術も使っています(写真右の犬)。そうするとラインがまっすぐではなく、やわらかい雰囲気になるんです。焼き上がるまでどう出るかわからない、仕上がりが予想できないというおもしろさ、そして一匹一匹の個性がより強く出るという魅力があります。最近は、ナチュラルで予想できない仕上がりになる、この技法がとても気に入っています。窯の中でワンちゃんたちに魔法がかかる、という感覚が好きなんです。

完成したワンちゃんたち
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つくる犬種やポーズは、どのようにして決めていますか? また、つくるときに、心掛けていることはありますか?
ポーズはナチュラルであるように心掛けています。インスピレーションは街角で見かけた犬から受けることもあるし、お客さんから「こんな犬種はつくらないの?」と言われて、それもいいねと思ってつくってみることもあります。あとは、ネットで犬の写真を色々と見て、犬種やポーズのインスピレーションを受けることもあります。他にも、犬だけでなく、猫や、くま、きつね、うさぎなど、フィンランドの森にいる自然界の動物をつくることもありますよ。イラストを描くときもそうですが、シンプル化するように心掛けています。すごくリアルにつくるのではなく、本物のエッセンスを少し残して、抽象化するようにしているんです。

雪が降る日のスタジオ/Photo : ©きつね
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ヘルシンキに、ご自身のスタジオがあるのでしょうか?
はい、このスタジオは、同じ職業訓練学校で出会った友人と一緒に5人で始めました。ヘルシンキでスタジオを見つけるのはとても大変なんです。わたしたちは運よくこの場所にスタジオを構えることができ、またアーティスト補助金で、ろくろや釜などといった必要な道具も買い揃えることもできました。スタジオがあるエリアも最高で、近所の人たちもとてもやさしく、イベントを開催すると遊びに来てくれたりとサポートしてくれるんです。ヘルシンキ中心地にありながら自然も豊かで、窓からはリスが走り回る様子が見えたり。本当に恵まれていると感じています。

スヴァンテ・トゥルネンの作品たち/Photo :©Veera Ala-Vähälä
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影響を受けた人やアーティストはいますか?
フィンランドには、新旧すばらしいセラミックアーティストがたくさんいるので迷ってしまいますが、わたしが特に好きなアーティストのひとりが、「スヴァンテ・トゥルネン/Svante Turunen」です。1950年代につくられたミニチュアのシカの置物がなんとも美しくて、セカンドハンドでいくつか見つけてお家で大切に飾っています。

ヴェーラさんの大きい動物作品たち/Photo : ©きつね
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今後は、どのような作品に挑戦していきたいと思っていますか?
今も少しずつつくっている、大きなサイズの動物も、もっとつくっていきたいと思っています。また、薪釜での制作も、もっと挑戦したいですね。もちろん、小さいサイズのセラミックのワンちゃんは引き続き作り続けていきたいです。どんな粘土を使い、釉薬はどんな配分でつくるか、そして何度の窯で焼くか、など、多くの要素が複雑に絡み合って仕上がるセラミックの世界は、とても奥深くてやりがいがあります。新しい配合の釉薬づくりにも挑戦して、新しい色やテクスチャをつくり出すことにも挑戦していきたいです。
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日本についてはどんな想いがありますか?
日本には2回訪れたことがあって、すごく素敵な時間を過ごしたので、また行きたいと思っている場所です。細部にまでこだわる日本のものづくりはとても素敵だし、小さい置物などもたくさんあって、魅力がいっぱいの場所です。ローカル電車に乗って、益子の工房に訪れたりもしたのですが、またそういった工房巡りもしてみたいです。

ヴェーラさんとルミちゃん/Photo : ©きつね
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このポップアップイベントを通じて、日本の方々に伝えたいメッセージはありますか?
日本でこのようなポップアップイベントを開催できることを、とても光栄に、そしてうれしく思っています。私がつくったワンちゃんたちを見て、みなさんがハッピーな気持ちになれたら、わたしもとてもうれしいです。

テキスト:きつね
東京都出身、2019年よりフィンランド在住。フリーランスのライターやバイヤー、コーディネーター等として日本とフィンランドを繋ぐ活動をする傍ら、自身のウェブメディアやインスタグラムでフィンランド生活やおすすめカフェなどについて発信している。お日さまとコーヒーと深夜ラジオがすき。
Website:https://lalafinland.com/
Instagram:@lalafinland