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生活に溶け込んで、役割にとらわれないものづくり
「ルフト/Luft」桶田千夏子さんインタビュー

空間デザインやプロダクトデザインを手掛けるデザイン事務所「ルフト/Luft」。
当店でも取り扱っている、壁に立てかけるだけという斬新なスタイルの棚、「ウォールラック/Wall Rack(デュエンデ/DUENDE)」や、ポーチやブックカバーなど上質な本革を使用したシンプルなデザインの革小物を展開する「エンベロープ/ENVELOPE(日本スエーデン)」シリーズ、「テーブルソイソース/Table Soy Sauce(木村硝子店)」などがLuft所属のデザイナーによってデザインされています。
しかし、Luftの活動はプロダクトデザインだけにとどまらず、空間デザインやセレクトショップのプロデューサーなど多岐にわたります。
Luftとは一体どんな集団なのでしょうか。今回新たに当店で取り扱いをはじめる「アウトライン/Outline」シリーズや「エルデ/Erde」シリーズのデザイナーである桶田千夏子さんにお話をお伺いしました。

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まずは、「Luft」について教えてください。

Luftは、武蔵野美術大学で同級生だった真喜志(まきし)奈美と竹島智子の二人によって、2005年に設立されたデザイン事務所です。空間デザインや家具デザイン、プロダクトデザインなどをメインに活動しています。
主宰の真喜志は、ファッションブランド「ヨーガンレール」や「minä perhonen / materiaali・elävä」などの空間デザイン、主にラワン合板を用いた家具デザインを手掛ける他、「D&DEPARTMENT OKINAWA」のプロデューサーも務めています。
竹島も店舗の内装デザインなどさまざまな空間のデザインを手掛けています。それぞれがデザイナーとして個々に活動しているので、共同事務所の様な位置づけです。

「Luft」という名前は、ドイツ語で「空気」や「間」を意味する言葉です。私たちがデザインに取り組むにあたり心に留めているのは、その場所や物の「間」を大切にすることだと思います。

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桶田さんが入所されたのは2012年ということですが、それまでもデザインのお仕事を?

いえ、全然違うんです(笑)。子どものころから法律家になりたいと思っていて、大学も法律関係の学部を卒業しました。大学卒業後もしばらくは法律関係の勉強を続けていたんですが、事情があって続けられなくなってしまい、「さて何をしよう」と考えたときに思い浮かんだのが昔から興味のあった料理だったんです。
それで東京の清澄白河に「山食堂」という店を開きました。旬の野菜や豆を使った家庭料理とお酒も楽しめる、小さな店でした。日々気軽に立ち寄れて、身体に良くて、頼りにしてもらえるような場所にしたくて、料理はもちろん、空間の設計も自分で手掛けました。

ここに、真喜志も、ヨーガンレールの方々も、木村硝子店のデザイナーの方も、よく来てくださっていたんです。今につながる方々との出会いに恵まれたのは食堂があったおかげです。
その後しばらくして体調を崩し、切り盛りが難しくなってしまいました。
そんな時に「ここをやっていたならデザインもできるよ!一緒にやろう!」と声を掛けてくれたのが真喜志でした。
最初はLuftで雑用や事務などをやりながら、山食堂にもたまに顔を出して裏側から支えていくという二足のわらじ状態でした。

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法律、料理、デザイン……まったくの異業種ですね。そこからLuft一本になったきっかけなどはあったのでしょうか?

二足のわらじの状態を1年半くらい続けていた時に、ヨーガンレールさんから「あなたはこれからどうするつもりなの?」と厳しいお言葉をもらったんです。
真喜志がヨーガンレールの店舗設計を手掛けている関係で、ヨーガンレールの本社へもよく伺っていました。もともとヨーガンレールの方々が山食堂のことを真喜志に教えてくださったこともあり、何かと気にかけて下さっていたんだと思います。
その時に、そろそろこの曖昧な状態は潮時だと思い、山食堂は、私が体調を崩してから支えてくださっていた方に譲り、Luft一本でやっていく決意をしました。

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最初は事務作業などをしていたとのことですが、今はデザイナーとして活躍されていますよね。

元々デザイナーになりたいという気持ちがあって入所したわけではなかったので、今でも「自分はデザイナーです」と胸を張って言える自信が無いのですが……。真喜志や、工房や工場でいつも素材に触ってものづくりをされている方々と一緒につくり上げているという感覚が強いです。
ただ、幼少のころからデザインや工芸の本を見るのが大好きで、中学生になると、学校の帰りに寄り道をして「松屋銀座」の「デザインコレクション」や「伊東屋」に立ち寄り、美しいものを眺めているのが好きでした。でも、その当時は法律家になりたいと思っていたので、美術の学校に行くという発想がなく、デザインは好きなことの一つという位置づけでした。
なので、私は美術の専門教育を受けておらず、美しい形を生み出すバックボーンが乏しいことを自覚しています。そんなわけで、普段自分が使っていてしっくりこないものだったり、暮らしの中に潜んでいる澱みのようなものに着目するよう心がけています。

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日常使っているときの違和感や足りない部分を形にしているのですね。

そうですね。最初にデザインに取り組むことになったのが「テーブルソイソース(木村硝子店)」です。しょうゆ差しは毎食使うものではなく、減ったらつぎ足されたりして、なかなか洗うきっかけが掴みにくいものだと思います。その状態はあまり衛生的ではないなとずっと思っていたんです。コップであれば、使ったら洗ってしまうというのが当たり前だと思います。その時使う量だけを入れて食卓に出して、使い終わってすっきりと洗うことができれば、気持ちよく使えるのではと思ったのがデザインの出発点でした。

「テーブルソイソース(木村硝子店×Luft)」

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では、「アウトライン/Outline(大木製作所)」シリーズでこだわったところはどこでしょうか?

実は大木製作所から水回り用品シリーズ開発のお話をいただいたとき、「水切りバット」、「ボトルスタンド」、「まな板スタンド」、「シンクバスケット」、「スポンジ入れ」といったものを自分自身は使わずに暮らしていたんです。なので、世の中の皆さんが何を求めているか、何に不満を持っているかがわからなくて、どうデザインすればいいのか、そもそもお話を受けるかどうか、最初は迷いました。ですが、発想を逆転させ、自分がなぜ今まで使用していなかったのかと振り返ってみると、キッチンでの圧迫感が気になったのと、清潔に保つことが難しいと思っていたからだということに気づいたんです。そこで、私のように今まで使っていなかった人が使ったとしても、空間的に負担がなく、清潔に保てる仕組みを意識してデザインしました。

「水切りバット 小(大木製作所)」

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たしかに名前の通り、必要な部分がアウトラインだけで構成されているので圧迫感がありません。

日常的に使うものだからこそ、使用感はもちろん収納や衛生面も意識しています。
例えば、水切りかごの下のプレートって、水がたまり続けていたり、放っておくと水アカがついてしまったり、手入れが億劫になることってありませんか?それに、洗った後に水切りかごに入れっぱなしで、次に使うときまで置いたままにしてしまっていて、そこから取って使って、また洗ったら水切りかごへ……この繰り返しも忙しい毎日を過ごす中でありがちだと思うんです。でも、本来は「水切りかご」であって「収納かご」ではありません。洗った後ある程度水を切ったら、水気を拭きとって、収納場所に戻すという行為を自然と行えるようにできないかなと思ったんです。

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はい……。うちも水切りかごが収納かごと化しています……

ですよね(笑)。だからあえてこの「水切りバット」は、容量も少なくして、また、水受けのバットやプレートを用いずに、リネンを敷いて水分を吸収させるように設計しました。びしょびしょに濡れてしまったリネンはさすがに絞って乾かしたくなりますよね。リネンなら乾きも速いので、使う度に洗っても負担を感じにくいと思います。また、トレーがないだけで見た目もすっきりして、使わない時は立てかけておけば作業スペースを確保できます。あえてリネンを水受けにしたことで、常に清潔に保つことができ、圧迫感を感じさせない構造になっていると思います。洗いものがほんの少量であれば、バット本体は使わずに、パッとリネンだけを敷いて水を切っていただいてもいいのです。

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なるほど! たしかにバットやトレーだと「いつか掃除しなきゃ……」と思っていてもなかなか重い腰が上がらないですが、リネンであればさっと洗って乾かして、また使うというのも簡単にできそうです。

アウトラインシリーズもしょうゆ差しもベースは同じ考えです。人って、必要に迫られないと動けないことってたくさんあるじゃないですか。なので、動き出すきっかけづくりができたらいいな、と。
面倒だと後回しにしがちなことも、いざやってみると大したことでもなかったり、でも、先送りにし過ぎていると、気づいたらどこから手をつけたらいいかわからない状態になってしまったり。少しの不自由を受け容れることで、より大きな自由を得られるとすれば、それは意味のあることだと思います。

事務所で実際に使っているという「水切りバット 大」と「カトラリー入れ」。

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次に「エルデ」シリーズについて教えてください。

器をデザインする時に真っ先に思い浮かんだのが、昔、骨董市で手に入れた古い器です。それは、戦後、海外の航空会社が機内食用に使っていた器でした。業務用なので、気を遣わずに、タフに使えるけれど、デザイン的にもシンプルで使いやすいところが美しくて。もうひとつ、それとは別に思い浮かんだのが、昔から実家で使っていたスープ皿でした。有名なブランドや作家の物というわけではないのですが、寒い日の朝に飲むコーンスープだったり、夜疲れて帰宅した後に食べるポトフだったり、その時の状況や気持ちなどと一緒に料理と器がセットになって「スープを飲むならあの器だ」と記憶に残る器でした。
そういった器について、はっきり言葉にして説明するのは難しいのですが“つい手に取ってしまう、日常になじむ器“というものがあると思うんです。最近では作家物の器でも、プロダクト寄りの作品も多くなってきていると思います。ですが、器が割れてしまったり、そうでなくとも家族が増えたり、送り出したりと、状況は変化するものです。そんな時に、作家ものの器はすぐに買い足すのが難しい。新しい器が必要になったとき、買い足せて、それが“日常になじむ器“だったらいいな、と。さらにその器が、業務用の器の横でも、作家ものの器の横でも、違和感なく組み合わせることができたらより嬉しいと思うんです。
買い足したくなったら買い足すことができて、業務用の器とも、作家ものの器とも、取り合わせて違和感がない、そんな器を目指したのが「エルデ/Erde」なんです。

「エルデ/Erde」シリーズ

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エルデシリーズは沖縄の窯元さんとつくっている器なんですよね。窯元さんとの出会いのきっかけを教えてください。

真喜志が「D&DEPARTMENT OKINAWA」のプロデューサーをしていたのがきっかけで、沖縄本島南部の糸満市の窯元である糸満工芸陶苑さんと知り合いました。沖縄にはたくさんの陶芸家がいるんですが、基本的には個人単位で自分の作品をつくっている方がほとんどで、プロダクトとしてお願いするのが難しかったんです。そんな中、糸満工芸陶苑さんは瀬戸で型物をやっていた経験がある方だったので、一緒に取り組んでくださることになりました。

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エルデシリーズをつくる上で、特に大変だったところはありますか?

そうですね、まず第一関門は、かたちを決めていくことでした。料理のジャンルを問わずに垣根無く使っていただけるよう、また、銘々皿としても、盛り皿としても使っていただける容量・形状となるよう、気を配りました。そして、大きさごとに用途をある程度見据えた上で、リムの幅や立ち上がりの形状に関して、調整を繰り返しました。
次なる関門は、釉薬のことでした。4色あるエルデシリーズの内、「薄緑」については、糸満工芸陶苑さんが普段から使われている釉薬と近かったこともあり、すんなり求める色が出ました。数年かかって「黒」も落ち着いたのですが、「白マット」と「飴」はどうにも難しくて……。試作を重ねたものの、普段から糸満工芸陶苑さんが使われている釉薬から逸れたものを製作することは負担が大きすぎるように感じました。
そんな時に、以前からお付き合いのあった益子の郡司製陶所に相談してみたんです。そうしたら、「窯の火入れの回転率も上げられるし、素焼きの状態で送ってくれれば焼くよ。面白いからやってみよう!」と言ってくださったんです。

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本来、素焼きの状態で遠方に送るのはかなりリスクがあるように思うのですが、そこまでしてでも絶対に納得いく色にしたいという強いこだわりを感じます。

そうですね、確かにリスクはありますが、梱包をきちんとすることでそこはクリアできました。
つくり手の普段の仕事に近いことに取り組んでいただくことで、自然と良いものが生まれてくると思います。

東京・中央区の「Luft」東京事務所。空間デザインは真喜志さんによるもの。

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「テーブルソイソース」にはじまり、「アウトライン」、「エルデ」とさまざまなプロダクトをデザインされていますが、すべてに共通する思いがあればお聞かせください。

その物単体としての美しさよりも、例えば器なら料理が主役としてあって、それを邪魔せず支えているような存在でありたいんです。空間も、出入りする人々、そこにいる人の服装、流れている音楽、照明など、さまざまな要素が刻々と変化していく状況を受けとめるベースであって欲しいと思います。そこに装飾の要素がなくてもいい。その時々の瞬間が装飾であり、彩りとなるはずです。その場所にいる人や、器に盛りつけられた食材が美しく見えるということがデザインのベースです。そういう意味でも、冒頭にお話しした「Luft」の意味である「空気」と「間」を大切にしたいという思いは、やはり根底に存在し続けています。

直接お会いしてお話を聞いている間、桶田さん自身の中にある「ブレない軸」の存在を強く感じました。
デザイナーと聞くと、パソコンに向かってデザインソフト上で設計図を描く姿を想像します。しかし、桶田さんの場合はソフトを扱う技術がないため、桶田さんのスケッチを元に真喜志さんが図面に起こしてくれるそう。でもイメージと違うものがあがってくれば、「ここは角度がちがう、もっとこうした方がいい」と臆することなく意見を言うそうです。事務所のボスであり業界の大先輩である真喜志さんに対して、指示を出すというのは遠慮してしまいそうですが、それができるのは、桶田さんの頭の中につくりたい形がしっかりと描けているから。幼少期の工芸への興味や、食堂での経験に基づく「ブレない軸」の存在こそが、桶田さんのつくり出すプロダクトの源になっているのです。

桶田 千夏子
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。
大学で法律を学んだ後、料理の道に転身。2010年東京・清澄白河に「山食堂」を創立。2012年より、真喜志・竹島と共に「Luft」の一員として家具・空間・プロダクトのデザインに携わる。食堂での経験を活かしながら「暮らしに必要な物」を見つめ直し、デザインの仕事に取り組んでいる。



ルフト/Luft
真喜志奈美、竹島智子、桶田千夏子の3名がそれぞれの活動をしているデザイン事務所。ドイツ語で「空気」の意味を持つLuftという事務所名が表すとおり、間や空気、余白を大切にした仕事を心がけている。そのデザインの範囲は空間、プロダクト、家具など多岐にわたる。
https://luftworks.jp/